♪ 平成一九年度
♪ 平成二〇年度
♪ 平成二一年度
♪ 平成二二年度
記帳室
♪ 四月一三日
うたい
符号のままに奏でる隣
歌い出す前の深い呼吸 聴こえ
それだけで鮮明に浮かんだ
今までだって何度でも気付けた筈なのに
その一音ですべてが過った
少し困った
饒舌な指先の感触も思い出した
君は道の花に触れるよう口ずさみ
僕は山影に沿う落葉と爪弾いた
泣き出しそうな歌声を憶えている
歌い
君は歌い
僕の名で問い
名ですべて問い
歌い
君が歌い
月は秒針のよう震えた
随分と経つよ
まだ歌うことがあるのなら
眠るよう閉じた声をもう一度
違う灯りの下で生きている僕らが
少しの間会えた黎明の色を憶えている
♪ 五月二二日
みずべ
波に向いて
背中触れるリズム
遠く 遠く 届いて
骨で蝶を編む
皮の羽瞬かせ
飛び立つあとに返す手のひら
映らぬ目に浮かぶ
箱舟なら見送りたい
選ぶ 水辺に置いた椅子
♪ 七月一三日
ヨク
人形へ帰ったので 浴槽に横たえた
蛇口捻って 鳴らす音
暗いなか 白いかお
ずっと見てて
浮かぶ髪が沈むころには
とぐろ巻く喉
赤い口が笑うから
水子染みた顔の僕は
縁に手を
髪の上から首を掴む十七の指
抉りたがられた目で追うのは
赤い口が笑うから
♪ 九月一九日
イロハ
花結びの風と 水写しの陰
春見慣れの秒と 雪数えの蝶
僕らは空を切らぬ音を鳴らしたかった
今より強くか弱く なりたいだけだった
胸に閉じた
何を無くしたんだった
僕らは手放さぬ命を歩きたかった
振り返ってゆく先の最後の花は
静かな水面を 凪がせずに咲いた
♪ 一二月二六日
letter
君はそうすべきだったんだ。
閉じ終える頃眠るといい 少しの字にも海を見て
時針と傾く琥珀の明り
やわらかな椅子があいている
取り留めもなく流れる空なら
今くらいはここにどう
そっと耳澄ませたのは 確かめるためだけじゃなく
絶望とは言ってない
過ぎない風を欲しても
誰かが呼んでいるような今日
画くその筆の向くままに
君はそうすべきたった。
♪ 二月二五日
誰にも迎えられない夕日よ
地平線へ往き着いたのならそのまま転がり出せばいい
どうせ次の信号だって赤い
あの孤独を信じているだけ
いつかそれを後悔しても
口でなんて言いたかないのさ
名も無き日々と百聞の価値を
うまくは泳ぐな 足音は降る
振り切れない影と知っても
昨日じゃあるまいしって
飛び越えなければ歩けないだろう
嘘みたいな季節なんだ
どちらかしか選べないのなら 同じひとつ
また満ちることの無い今日を 口遊むならこの指とまれ
♪ 三月二七日
どういう わけか。
人が私を理解しないとき 私は人を理解する
翼だけでは飛べないと ただ口にしてお腹満たす?
いつまでこんな合いの手を? 同じ場所に居るからさ
人が言おうと言うまいと 有るのは問いと間違いばかり
笑みと涙が止まらない 違う誰かになれたのかい
口を開けなよ 何色の傷がいい?
綺麗なお目々で見てんじゃねいよ 理由はとっくに溢れてた