歌った。

名前知らずに口ずさんだ あのメロディみたいに

 

 

歌った。

あの階段 隣り合って座ったあの時みたいに

 

 

歌った。

星の道を辿る指先みたいに覚束なくても

花の名をあてるように探した心みたいに不確かでも

歌った。

 

 

息と涙に 震える声が途切れても

何一つ掴めずに ひとり夕陽を見送った後も

歌った。

 

 

何度指差され 第三者と嗤い合われても

何度自分の為に泣いて 同じ想い出に繰り返し温められても

歌った。

 

 

いつか笑いたくて

いちど許されたくて

惨めさに塞いで

歌った。

 

遮られた

数えられた

決められた

歌った。

 

誰も悪くないのに生きづらいことが苦しくて

ひとり耳を塞いで声を殺して

歌った。

 

詩の無い歌は抱き寄せることなく

ただ頬に添い 続く

 

文字が失くした声と言葉が失くした心で そんな歌を

 

歌った。

 

歌ったんだ。

 

いくつものごめんと

たくさんのありがとうを

たったひとつのさよならにした今日は

歌った。

 

 

 

歌った。

 

 

 

 

歌った。