放 課 後 一 夏 籠

 

 

 

 

 

 最後の音が響いていた。

 それさえも飲み込み、体育館はまた静寂へ返る。

 

 

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・もう遅くて、でも今だから、ですが。」

 

「ああ。」

 

 

 

 見上げる。

 あんなにも激しく揺れ動きぶつかり合ったこの館内の空気が、今はこんなにも静粛に自分を包んでいる。

 

 

 

「先輩、初心者の練習にわざわざ付き合ってくれたアヤセの為に≠ニか、だからたくさん点取らなきゃアヤセに申し訳無い≠ニかって、考えてたんじゃないですか?」

 

「・・・。」

 

 

 

 太陽が地平線に触れ、地面を赤くなぞりながら体育館を横切っている。

 長く、何の音を立てることもなく。

 

 

 

「それで、私にあわせる顔がない、なんて思って避けてたんですか?」

 

「・・・。」

 

 

 

 静けさに満ちている。あんなにコロコロと動く彼女の表情もまた、波風一つ無い。

 同じ光の中に並ぶ自分もそうなのだろうと思う。

 

 

 

「・・・そんなこと、考えなくてよかったんですよ。私は先輩に一生懸命教えてきたつもりですけど、それは点を取るためとか、ゲームに勝つためとか、公式試合に出られない自分の代わりとか、そんなつもりじゃなかったんですから。」

 

「・・・。」

 

「私は、先輩が先輩のバスケットをするお手伝いをしただけなんです。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「そういうの、早く言えよ。」

 

「先輩が言わせなかったんじゃないですか。」

 

「言わせられる訳無いだろ。」

 

「ばーか。」

 

「・・・本性表しやがったな。」

 

「ふふっ。」

 

 

 

 彼女がゆっくりと微笑む。

 どうしてだか、いつもそれをまっすぐに見ていられない。

 

 

 

「・・・じゃ、受験生は家帰って受験勉強でもする。」

 

「ばーか。」

 

「お前、」

 

「ふふふふふ。」

 

 

 

 夕日が沈み、少しずつ風景が冷えていく。

 まだ街灯も点かないこの時間は、透き通ったトーンで青白く浮かび始めている。

 

 

 

「なんていうのか、」

 

「はい。」

 

「・・・ありがとう。」

 

「マジ言うの遅くない?」

 

「なっ・・・てめ、先輩に向かって。」

 

「ふふふふふ。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・だから、ありがとうって。」

 

「だから、どういたしましてって。」

 

「なんで切れてんだよ。」

 

「お互いさまです。」

 

「む・・・。」

 

「ふふふ。」

 

 

 

 あの茹だるような暑さを失い、けれど涼しい風も吹かないこの季節は、きっと何の印象も名も残さず、ただ言葉を終えた人の心にそっと触れて、気付かれないままに過ぎていく。